画家の眼とイノベーション

画家のような芸術系の仕事は二段構造になっています。
このことは、一般の人には分かりにくく、誤解されることも多いです。二段構造の下部として、デッサン力などの描写力、用具の知識、使用方法に習熟するなどのテクニックやスキルの土台部分があります。
一般の人が、「絵が写真みたいにリアルに描けるテクニックが凄い」と言われるような描写力や道具を的確に使う技術にあたります。
しかし、この部分はあくまで、画家の創作活動では、ベースの部分でしかなく、実はそのベースの上に、その画家独自の世界観を表現する華を咲かせられるかが、本当に問われるべき画家の真価なのです。

芸術家の創作活動は、土台としてのテクニックと華としての芸術性の二段構造になっているということなのです。
しかし、一般の人はテクニックに眼を奪われがちです。評価の基準として、「どれだけリアルに描写できたか?」という分かりやすい「ものさし」があるからです。
それに対して、華の部分はその画家独自の世界観を表現するもので、他にない表現を追い求めているわけですから、その性質上、明確な価値判断の基準がありません。
はっきり言って論理的思考を越えた表現になり、美的感性で感じるしかないものとなります。当然、分かりにくいものとして認識されてしまいます。
人間の脳は、理解できないことを苦痛と捉えてしまう特性がありますから、本物の芸術に真剣に向き合うという意識が持てないのも理解できます。

本物の芸術家になるべく創作活動に打ち込む画家は、観るものすべてを、単に視覚だけで捉えるのではなく、「自分の世界観を表現する為に必要な素材はないか?」という探究心で観ています。
自然の移ろいから、ビルの壁に映る木々の影、壁の汚れ、横断歩道のひび割れ、鉄の錆まで、すべてのものが興味の対象になります。
画家は、安易に必要不必要を決めるジャッジはしません。また、イメージは言語的説明をそぎ落としてビジュアル化して記憶します。
そうすることで脳のキャパシティに負荷をあまり掛けずに意識の倉庫に大量に保管できるのです。
この素材集の倉庫を豊かでカオス状態を保つことで、いつか意外な組み合わせから、新しい表現が生まれる可能性があると思っているからです。

ビジネスの世界で「イノベーション」という概念を生み出したのは、1883年にオーストリア・ハンガリー帝国に生まれた経済学者、ヨーゼフ・アロイス・シュンペーターです。
彼は『経済発展の理論』(1934年)で「新結合」という言葉を用いて「イノベーション」を詳しく解説し、世界中に大きな影響を与えました。
彼は、「イノベーション」は、「今まで組み合わせたことのないアイデアや技術を組み合わせることで生まれる」、それが「新結合」であり、素材の組み合わせは、異質であり、距離があればあるほどインパクトを持つと考えました。
確かに、あまり本質的に違いのないものを組み合わせても、新しい機能を付け加えた改良のレベルでしかなく、新しいビジネスを生み出す「イノベーション」とはなりません。

この「新結合」の発想は画家の思考と同じなのです。

今までの成功体験が通用しない、先も読めない時代に突入した現代、ビジネスの世界で、エグゼクティブやビジネスエリートたちが、なぜ美術館の鑑賞コースに参加し、デザインスクールに通うのか、その理由は「画家の眼」を手に入れることにあったのです。
今までは、数字で測ることができることがビジネスとして重要でした。GDP、株価など論理と数式がビジネスの基準になっています。
しかし、「イノベーション」を生み出すためには、明確な判断基準がある領域だけを対象にしていては、誰もが考える同じ結論しか導き出せません。
既存の論理的思考を越え、今までにない組み合わせを思考する「画家の眼」を手に入れることが、「イノベーション」には必要だと、ハイレベルの知性を持つビジネスパーソン達は知っているということです。

「画家の眼」の意味を知ることは、ビジネスにおいて有益なだけではなく、AIと共存して生きる次世代のキャリア教育にも必要となります。アート×ビジネス×教育は、益々密接な結びつけの上で語られるようになることでしょう。

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